肺高血圧症と闘うこと

肺高血圧症(Pulmonary Hypertension, PH)は、全身の血圧とは別に、肺の血圧のみが高くなる病気です。国の難病に指定されている肺動脈性肺高血圧症(PAH)や、慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の場合、進行性であり、放置すると死に至ることも少なくありません。薬を処方しても、完治することは難しいのです。ところが患者数が数千人で病気そのものが知られていないこともあり、一般のクリニックでは診断がなかなかつきません。また患者さん自身にも知識が少ないことが多く、診断された時には病状が進行してしまっている場合もあります。

私は、多くの会員仲間達が亡くなる現実を見てきましたので、会員には最新の治療情報を提供し、また病気にかかった人には早い診断がつくようにしたい、といつも考えています。

この国際大会には、2000年から毎回参加し、日本の代表としてスピーチをしたこともあります。会のこともよく知っているつもりですが、会員総数13,000人という大きな組織だけあって、毎回気づかされることがあり、今回は38年間闘病している方との出会いや、30カ国から参加した仲間たちとの出会いがありました。

Global Leaders’ Summit

さまざまな国々や立場を超えて集まる患者会代表のために、事務局は特別の講演やトレーニングを用意してくれていました。本会議の前日の19日早朝から夕刻遅くまで開催された「Global Leader's Summit」がそれで、世界の5大陸から一堂に集結した同病の患者会代表者たちを対象にさまざまな内容を盛り込んで活発な意見が交わされました。言語、人種、国境を越えて、互いの経験から患者会運営法を学び、PHを克服していこう!という試みです。私のテーブルにはカナダ、サウジアラビア、中国、ニュージーランド等に加えて、米国PHAのスタッフが加わり、互いの経験からPH患者会運営法を学び、共に協力してPHを克服していこう!という共通の課題を共有できたことで、「世界のPHCommunityは一つ」ということを実感できました。

患者会以外の参加者(医師や企業関係者ら)を完全シャットアウトして約70人が参加して開催された、世界の患者会代表者のため会議の一部をご紹介します。
プログラムは▽ネットワーキングの重要性▽寄付の集め方▽各国の状況発表▽医師への教育▽活動の成功例――などがいくつかのテーブルに分かれて話し合われました。中でも興味深かったのは、「医師への教育」。講師は、自身がアラバマ大学肺高血圧症センター教授で、PHAの医師たちで構成するアカデミア(Scientific Leadership Council)トップのKaren F. Fegan先生。米国PHAの患者会と医師との連携の成功例のエッセンスを教えてくださいました。「医師に接する際には常に尊敬を表すのは大事です」、「医師たちにも地域、国、国際的にアカデミア集団とのネットワークの機会を提供すること」等医師の立場から、患者会として医師との連携を強化していく秘訣を具体的に教えてくださり、とても参考になりました。

次に興味深かったのは「寄付の集め方」。これはお国柄を感じさせます。というのも「イベントを開催したり、品物を売って会のために資金をつくろう!」というのは、いかにも欧米型の考え方のように思えるからです。アジアや中南米の方々は、方々にひたすら寄付をお願いして回るのが一般的な姿で、お互いに学びあうのも大事だと思わせるセッションでした。
民族衣装にも癒されたりしました。サウジアラビアからの代表は頭からつま先まで民族衣装で私の隣に座っていらしたのですが、翌日別の場所で出会ったら、背広姿に着替えていましたので、同じ人とはわかりませんでした。

完治に向かって走ろう

20日から22日までの本会議のテーマは「Racing toward a cure」です。プログラムはオープニングのスピーチに始まり、小会議室に分かれて患者同士や患者と医師・医療関係者が話しあうセッション、医師だけを対象にした会議、ポスターセッション、メーカーの展示などがありました。

参加者一同を集めたオープニングで、38年間の闘病生活を送る女性、Jeannette Morrillさん(62歳)がスピーチをしました。Morrillさんは1976年5月にPHと診断され、余命2年と宣告されたのだそうです。メーン州で小学校の教師をしていた時に病気が判明して一時は悪化しましたが治療で持ち直し、2年後には結婚。仕事は続けることができたものの、1979年に症状が再度悪化したのをはじめ、何度も「これで人生は終わった」と感じたことがあったといいます。小康を保ったり、悪くなったり。そんな中で体には常に薬の注入を受けながら夫に励まされ、1979年には韓国から2人の男の子を養子にしました。そして昨年には、孫が誕生。闘病生活を続けながら人生と向き合う姿を淡々と話し「病気に負けてはいられない。勇気を持って進みましょう。私の例を忘れないで」。叫ぶように訴えて約50分の話を締めくくると、参加者は総立ちとなって拍手を送りました。Morrillさんの人生は、参加者の多くが、自身の過酷な闘病体験と重ね合わせ、今大会テーマの「Racing toward a cure」を体現している。皆がきっとそう感じたからでしょう。私自身も長年に及ぶ娘との闘病を思い、聞きながら涙があふれてしまいました。