知識を高め、議論する

この会議の参加者全員は、同じホテルに泊まりこむので、三食を共にします。この食事会は大変ユニークで、常にテーマがあり、さまざまな立場の人たちが繰り広げるスピーチやプレゼンに、参加者一同、いつの間にか聞き入ることになる仕掛けになっています。

例えば、2日目の朝食は「Power Breakfast」。まるでビジネスの延長のような響きで、テーマは「Network with a Medical Professional」でした。参加者が事前に出した質問から代表的なものに対し壇上の医師が答え、その後は各テーブルに医師たちがちらばり、多くても8人くらいのグループで話し合います。「数種類の薬剤の中から患者に適した薬を決める時の判断基準は?」「治療の主導権を取るのは循環器科?それとも呼吸器科?」。ふだんの治療では聞きたくても尋ねにくい質問が、次々に登場していました。

一方、小グループに分かれて展開されるセッションは、形態はさまざまだが、参加者からの質問が途切れることはありませんでした。壇上からの話を「拝聴」する姿勢が目立つ日本とは、国民性が違うのでしょうか。
その一つ「Communicating about PH」では、患者3人が壇上から自らの闘病体験と医師との会話を披露しました。すぐに参加者から質問が飛び出します。「かかりつけ医にPHの知識がない。どうしたらいいのだろう」。精神的な悩みもあります。「闘病していれば調子のいい日、悪い日はあるわ。気分が上下する中で、周囲の人たちとどうしたらよい関係が続けられるのかしら?」

「Coping with chronic illness」では壇上に3人の看護師たち。医師に聞きづらい悩みがぶつけられました。「ダイエットをしたら体重が相当減ったこともあったけど、また増えたりして移動が激しいの。アドバイスをいただけないかしら?」。そして17年の間闘病生活を送る人からは、こんな悩みも。「知り合いの会員が1年で8人亡くなった年もあった。自分は幸運と思う反面、生き続けることの重みを実感している。重みを罪だと感じることさえある。どうすればこの気持ちは軽くなるのだろうか」

ポスターセッション

別の会場で会議を続けている医師たちが一斉に参加者の近くに来て研究成果を話すのが、ポスターセッションの説明時間です。日本からは慶應義塾大学医学部の講師、福島裕之先生(小児科学)と助教の柴田映道先生が参加しました。福島先生は「肺の多発性末梢動脈狭窄ともやもや病との関連から起きるPHの可能性」を、柴田先生は「先天的心臓病、内臓逆位や多脾症候群とPAHの関連」をテーマにした研究成果を発表、熱心に質問する米国人医師たちに解説しました。集まる米国人参加医師には高名な人も少なくありません。国際学会並みに知己を得ることができるのも、この大会の特徴でした。また患者・家族にとっても、これだけの医師が自分たちの病気に関して研究が進んでいることの成果を知ることで、また研究者に質問することもでき、大きな希望を感じることが出来ました。アカデミアとその研究成果の恩恵を受ける患者との距離が大変近いことも、このポスターセッションの魅力でした。

ポスターセッションの横ではスポンサー企業によるブースが並びます。今回は体に直接薬剤を送り込む医療機器の展示も目立ちましたが、日本では薬事法で禁じられている治療薬等の情報も、患者は各ブースから入手し、直接に質問することもでき、国の規制の違いがあるとはいえ、我が国の状況と比較して大変羨ましく感じました。

ファッションショー

薬剤を送り込むポンプを付けた患者さん。酸素ボンベを引かなければならない患者さん。女性も多いPHの患者さんにとって、見た目の重々しさや服装は悩みの種です。ファッションショーは、そんな人たちのファッション感覚に勇気を与え、服装にもアイデアを出す機会を持ちたいとの趣旨で始まりました。会期の終盤、1時間の催しには子供から大人まで約40人の患者たちが自慢の服装で登場しました。司会をしたのは11歳の男の子Lucas君です。闘病生活7年半になるが、ハンサムな少年の進行ぶりに、会場で見守る参加者からは、励ましの声がかかります。「見て、見て。ポンプがどこにあるのかわからないね」。Lucas君にいわれたティーンエージャーの女の子がくるりと回ると、背中の目立たない位置にポンプが現れました。

父親に伴われて恥ずかしそうに登場する女の子。そして12歳というのに目いっぱい化粧をして大人びた女の子。「最近太り気味で…」などといいながら堂々と花道を歩く参加者たちに、会場からは次々にフラッシュがたかれ、惜しみない拍手が続きました。

学んだことを活動に生かすために

国際大会で学んだことを自分の会に生かし、活動に結び付けたい。ずっとそう思い続けているのですが、現実はなかなか厳しいです。自分の病気と闘っている患者さんは、外の活動に目が行かない傾向があるからです。もちろん新しい医療知識は知りたいと、だれもが思っています。でも思いと現実の間にあるミゾは、なかなか埋まりません。

そんな中で私は国内で毎年「全国PH大会」を企画し、運営しています。これも元はといえば今回参加した国際大会にヒントを得たのです。今年も5月の日曜日、患者さんや家族約200人が東京の慶應義塾大学病院に集まり、医師の話す最新医療情報に耳を傾けたり、意見交換したりしました。
支援していただく方々の力で実現している企画ですが、私はもう一歩進ませたい。患者さんが患者さんに教えたり、看護師さんがリードする勉強会等実現させたいと考えています。米国の国際大会では、毎回患者さんが研究のために献血をする特別室も設けられています。今年は315人の患者さんがボランティアで研究のために献血しました。

国際大会から帰国して1週間ほどしたら、私たち世界の患者会のGlobal Summitで話し合われた内容を今後発展させていくために、事務局から提案が届きました。今後の連携活動としていくつか挙げられた中に「患者登録を考えよう」というのがありました。ひと口に同じ病気といっても、人種、性別、年齢、環境等によって病態は異なります。たくさんのケースを登録して世界のデータベースをつくり、医療者が自由にアクセスできるようにすれば治癒へ向けた研究が一段と進むのではないか?そんな考え方が患者会から出てきたことは、自分たちもただ待っているだけでなく、積極的に病気と向かい合い、治療の進歩に貢献していきたいとする世界の患者会の強い意志を感じ、私たち日本の患者会でも遅れないでついていこう、との思いを新たにしました。

「私たちは一人じゃない。みんなで闘おう」。患者会は、もちろんそのためにあります。でも病気と闘うということは、もしかするともっと広くて深い考え方へと発展させることができるのかもしれません。海を隔てた国際大会に参加し、さまざまな国の関係者から学ぶ意義は深い、と私は思い続けています。