CTEPHに対する根治的治療は、器質化した血栓を肺動脈内膜とともに摘除するPEAが唯一の手法です。
PEAの適応基準には、UCSDによる従来のPEA適応基準とESCによる最新のPEA適応基準(表1)があります1)。また、CTEPHは形態学的に、①主肺動脈に主病変を有する中枢型(写真1)と、②区域肺動脈より末梢に主病変を有する末梢型(写真2)の2つに大きく分けられます。①と②の中間型については、優位な方に分類します2)。また、Jamiesonらは摘除標本から肺動脈の閉塞形態をⅠ~Ⅳの4型に分類(San Diego分類)し(表2)、Ⅰ型とⅡ型を中枢型、Ⅲ型とⅣ型を末梢型としています1)。
欧米とは異なり、日本では末梢型CTEPHの頻度が高く、手術適応の決定が困難な症例が少なくありません3)。また、CTEPHは進行性の疾患であり、放置すれば末梢病変の進行(リモデリング)により予後不良となることが考えられるため、手術適応を満たし、技術的にPEAの実施が可能と判断されれば、積極的に手術を行うことが望まれます4)。近年、PEAの手術手技は向上し、良好な治療成績が報告されるようになってきましたが、依然として危険を伴う手術です。PEAは術前検査、手術手技、術後管理などにおいて専門的な知識と経験が必要とされるため、治療実績が豊富な施設での治療が望ましいとされています2)。PEA実施に際しては、CTEPH治療に携わる各診療科間、施設間の連携も重要です。
・mPAP≧30mmHg、PVR≧300dyne·sec·cm-5
・NYHA/WHO機能分類≧III度
・肺動脈病変の中枢端が外科的に到達しうる部位にあること
・重篤な合併症(併存疾患)がないこと
・NYHA/WHO機能分類≧III度に加え、II度も適応とする
・区域肺動脈レベルの末梢病変であっても、外科的に到達可能であれば適応とする
・高齢、PVR高値や右室機能不全は、PEAの適応除外要因とはならない
日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)より作表
表2 肺動脈病変の局在(病変)
中枢型 |
Ⅰ型 |
主肺動脈や葉間動脈に新鮮血栓を認めるもの |
Ⅱ型 |
器質化血栓の有無に関わらず、区域動脈の中枢側に内膜肥厚、線維化組織を認めるもの |
|
末梢型 |
Ⅲ型 |
器質化血栓の有無に関わらず、遠位側区域動脈に限局して内膜肥厚や線維化組織を認めるもの |
Ⅳ型 |
肉眼的な血栓塞栓病変のない、より末梢の細動脈の病変を認めるもの |
日本循環器学会. 肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)より作表
Ⅰ型、Ⅱ型の中枢型CTEPH:
・PEAの良い適応1)、2)
・重症であってもPEAが容易なことが多く、良好な治療成績が期待できる2)
Ⅲ型、一部のⅣ型の末梢型CTEPH:
・到達困難、手術効果が期待できず手術適応外2)、5)
・PEAを試みても、麻酔、体外循環、全身冷却などの影響による残存PH(pulmonary hypertension:肺高血圧)により死亡のリスクが高くなる2)
CTEPHに対するPEA適応の判断は、PAG(pulmonary angiography :肺動脈造影)により肺動脈の閉塞形態(病変の局在と閉塞・狭窄の程度)を把握し、右心カテーテル検査でPHの重症度と心機能を評価し、肺血流シンチグラフィーの所見を参考に、全身状態を考慮して総合的に判断します6)、7)。
かつては、PVRが1,000 dyne・sec・cm-5以上の重症PHはPEAの適応外とされていましたが、経験の蓄積と手術成績の向上により適応の限界が広がりつつあります8)。PEAの適応判断は、PHの重症度よりも肺動脈病変の局在が重要です。したがって、mPAPやPVRなど右心カテーテル検査の結果を参考に、PAG上の病変の局在に重点を置いて決定されます2)。
略語
CTEPH: chronic thromboembolic pulmonary hypertension:慢性血栓塞栓性肺高血圧症
PEA: pulmonary endarterectomy :肺動脈血栓内膜摘除術
PH: pulmonary hypertension:肺高血圧
PVR: pulmonary vascular resistance: 肺血管抵抗
mPAP: mean pulmonary arterial pressure:肺動脈平均圧
References