呼吸器科医が診るCTEPHの診断プロセス Vol.1 Chapter1 2019年作成
静脈や心臓内にできた血栓が遊離し肺動脈を閉塞することで発症する肺血栓塞栓症(pulmonary thromboembolism:PTE)。欧米に比べて少ないと報告がありますが、近年、高齢化や食生活の欧米化、診断率の向上などにより、わが国でも増加しており、PTEによる死亡者数も増加傾向にあります。
ここでは、呼吸器科医が診るCTEPHの診断プロセス~急性肺血栓塞栓症から慢性血栓塞栓性肺高血圧症まで~と題して、今回から3回にわたり、呼吸器科医であり肺循環領域に詳しい、千葉大学医学部附属病院呼吸器内科の坂尾誠一郎先生よりご解説いただきます。
今回は、呼吸器科医として、急性肺血栓塞栓症(acute pulmonary thromboembolism:APTE)、慢性肺血栓塞栓症(chronic pulmonary thromboembolism:CPTE)について、さらには器質化した血栓により肺動脈が慢性的に閉塞・狭窄することで発症する慢性血栓塞栓性肺高血圧症(chronic thromboembolic pulmonary hypertension: CTEPH)の病態について、解説します。
いずれの場合も、息苦しいといった呼吸困難の症状で発症する場合が多いと考えます。APTEの場合は、比較的その症状が急速であり、術後や長期臥床、長距離のフライト後などAPTEを示唆する背景が明らかな場合が多いですが、CPTEにAPTEを合併した亜急性(sub acute)やCPTEの場合は、呼吸困難を呈する他の呼吸器疾患や循環器疾患と鑑別することが臨床上の課題になります。実際に、CTEPHであるにもかかわらず、しばらく慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease:COPD)として治療されていたという症例もあります。息苦しいと訴える患者さんに対しては、鑑別診断の一つとして、PTEを再認識してほしいと思います。
まず、血栓はなぜできるのでしょうか?血栓は、Virchowの3徴である「血流の停滞」「血管内皮障害」「血液凝固能の亢進」や、プロテインC、S欠乏症などの先天性危険因子、手術、安静臥床、うっ血性心不全、エストロゲン、経口避妊薬、ステロイドなどの薬剤といった後天性危険因子によって発生します。
では、急性にできた血栓がなぜ肺高血圧症(pulmonary hypertension:PH)を引き起こすのでしょうか?一番理解しやすいのは、血栓により機械的に肺動脈が閉塞するということですが、原因はそれだけではありません。神経液性因子による血管攣縮、つまり、血管の拡張因子のバランスが崩れることや、低酸素性肺血管攣縮も原因になります。ここで注意してほしいのは、APTEの平均肺動脈圧(mean pulmonary arterial pressure:mPAP)は40㎜Hgを超えないということです。急性を疑われた症例でも、mPAPが40mmHgを超えている場合は、ベースにCPTEがあり、そこに急性血栓症を合併した可能性を考える必要があります。