呼吸器科医が診るCTEPHの診断プロセス Vol.3 Chapter1 2019年作成
前回は、CTEPHの治療、そして、CTEPH治療薬として適応を持つリオシグアトの有用性についてご紹介しました。最終回となる第3回は、実際に肺血栓塞栓症(PTE)の診断の進め方について、症例を用いて、千葉大学医学部附属病院呼吸器内科の坂尾誠一郎先生よりご解説いただきます。
1例目は60歳代女性です。熱湯による大腿部の熱傷で入院し、約3週間後、排便後に意識消失を認めました。急性血栓塞栓症の典型例です。室内気でのSpO2は80%台で、意識はすぐに回復しましたが、1時間後に再び意識を失ったため、造影CTを行ったところ、両側肺動脈に血栓による塞栓を認めました。CT終了後に下顎呼吸になったため、気管挿管を行い、V-A ECMO(膜型人工肺)を導入しました。Flowが止まったのは2、3分程度で、4分程度Low flow状態で心拍が再開しました。WHO機能分類はⅣです。
急性の場合、血栓溶解療法が有効なことが多いですが、本症例のように、ECMOを導入するような重症例では血栓溶解療法による改善が望めない場合もあります。そこで、血栓摘除術を行ったところ、ひも状に連なった血栓が摘出されました。これは、下腿にできた血栓が肺に飛んで詰まったものです。
術後心エコーでみると、ほぼ正常に近い状態まで回復しています。
本症例のような重症APTEはICUで診ることが多く、一般の呼吸器外来で遭遇することは多くありませんが、「突然の呼吸不全」を認めた場合には、急性血栓塞栓症の可能性を念頭に置くことが重要です。
血栓を疑ったら、フィブリン分解産物を検出するD-ダイマーの測定が有用です。D-ダイマーは、PTEの除外診断に用います。臨床的にみてPTEの可能性が中等度または低い場合、D-ダイマーが陰性であれば、まずは急性期を除外できます。ただし、慢性期およびCTEPHでは、D-ダイマーが陰性のこともあるため注意が必要です。
急性血栓塞栓症であった場合には、早急に適切な対応を行わないと突然死に至ることがあります。発症時にショックを呈する重症例の死亡率は18~33%にのぼることが報告されています。肺塞栓を疑った時点でヘパリンを投与することが重要です。本症例の血栓は深部静脈血栓症(deep vein thrombosis:DVT)によるものでしたが、APTEの最大の予後規定因子は、深部静脈血栓の進展による再発です。
加齢や長時間座位といった背景や、外傷や悪性腫瘍、先天性あるいは後天性凝固亢進、心不全、下肢静脈瘤、脱水、肥満などの病態、手術や薬剤、カテーテル検査や治療などをAPTE再発の危険因子として常に念頭に置くことが大切です。