呼吸器科医が診るCTEPHの診断プロセス Vol.3 Chapter2 2019年作成
2例目は50歳代男性です。体動時の息切れを自覚し、近医を受診しました。喫煙歴があり、睡眠時無呼吸症候群を治療中、WHO機能分類はⅡです。呼吸機能をみるとFEV1.0%(1秒率)が69.5%とやや低く、好酸球とCRPがやや増加しています。D-ダイマーは軽度上昇し、血液ガス分析では過換気のためかPaCO2が29.3mmHgと低値でした。
胸部レントゲン後の胸部CTでBulla、さらに気管支肺炎を疑う所見も認められ、本症例はCOPDと診断され、治療が開始されました。
しかし、症状は改善せず突然胸痛が出現したため、心筋梗塞疑いで循環器内科にて冠動脈造影が行われましたが、異常を認めませんでした。次に行った右心カテーテル検査で平均肺動脈圧(mPAP) 23mmHgとわずかな上昇を認めました。心エコー検査を行い、三尖弁圧較差58mmHgと上昇を認めたため、胸部造影CTを行い、肺動脈内の血栓を確認し、この時点でCTEPHと診断されました。
あらためて、本症例の胸部レントゲン画像をみると、肺動脈の拡張および左第2弓の拡大と、典型的な肺高血圧症(PH)の所見がみてとれます。
CTEPHは器質化した血栓により、肺動脈が慢性的に狭窄・閉塞を起こした疾患の総称です。6ヵ月以上、肺血流分布ならびに肺循環動態が大きく変化せず、mPAPが25mmHg以上で、左房の圧が正常(左の心臓に異常がない)、そのうえで肺高血圧、肺血流分布異常を来す他の疾患を除外して、初めてCTEPHと診断します。本症例は、この診断手順に従ってCTEPHと診断され、患者さんの希望により血管拡張薬による内科治療を開始しました。
CTEPHでは、慢性的な肺動脈の閉塞により肺高血圧および低酸素血症を来すため、多くは「体動時の息切れ」が主訴になりますが、これはCTEPHに特異的な症状ではなく、COPDを含む呼吸器疾患でも多くみられるため、「体動時の息切れ」を訴える患者さんに対してCTEPHを疑うことも鑑別診断として重要です。
CTEPHは、PHの分類で4群に位置付けられていますが、PHでは2群の左心系疾患に伴うPHや、3群のCOPDなどの肺疾患や低酸素によるPHのほうが多く、ESC/ERSガイドラインの肺高血圧症診断アルゴリズムでも、CTEPHの診断にあたり、これら心疾患や肺疾患の除外診断が必要とされています。
3回にわたってお送りした「呼吸器科医が診るCTEPHの診断プロセス」、お届けした内容が肺血栓塞栓症診療の一助になれば幸いです。
解説・監修 千葉大学医学部附属病院 呼吸器内科 坂尾 誠一郎 先生
(ご所属・ご役職は記事作成当時のものです。)