肺高血圧症治療ガイドライン(2017年改訂版)
CTEPHは国の指定する難病ですが、適切な時期に適切な治療を施すことで根治する可能性のある疾患です。ただし治療しなければ悪化の一途を辿り、時には死に至ることも。肺高血圧症の専門施設なら治療できたのに、何の病気かわからないまま、命を落としてしまう患者さんもおられます。また運良く治療を受けることができても、病気のために社会生活ができなくなってからでは失うものが多すぎるでしょう。早期発見・早期治療の大切さをぜひ知っていただきたいと思います。
早期発見、早期治療が根治へとつながるCTEPHですが、専門病院への受診がなかなか実現しない大きな理由は、診断の難しさです。CTEPHの主な症状は「息切れ」「だるさ」「疲れやすさ」「咳」「むくみ」など。ひどくなると失神する場合もあります。しかし、さほど症状が進んでない状態だと喘息や慢性気管支炎と区別ができにくい。「精神的なものでしょう」と言われるケースもあります。
症状と疾患が結びつきにくいCTEPHですが、プライマリケア医の方々に注意いただきたいポイントがいくつかあります。まずCTEPHには「反復型」と「潜伏型」に区別され、反復型については過去に肺塞栓を起こしているので既往歴を確認してください。潜伏型は明らかな症状がないまま進行しますが、特徴的なのが聴診における「Ⅱ音の亢進」。よほど丁寧に聴診しなければ気づかないものの、おかしいと思うきっかけにはなると思います。また心電図や心エコーにも特異的な変化がありますね。いずれにせよ常にCTEPHを念頭に置きながら「もしかして」という気持ちを持つことが重要でしょう。
CTEPHはもともと患者さんの絶対数が少ない疾患ですが、ここ数年で著しく増加傾向にあります。その背景にあるのは「治療の進化」です。治療方法の劇的な進歩があり、学会やメディアでも注目されることで、循環器系以外の先生もCTEPHという言葉を耳にする機会が多くなってきたのでしょう。結果、プライマリケア医から専門医への紹介が増え、潜在的な患者さんが表面化してきた…と、私は考えています。
治療の進化とは「新しい選択肢が増えたこと」です。数年前まで、CTEPHの治療は「外科手術」が唯一の方法でした。しかし近年、新たに2つの治療法が誕生。これは非常に画期的な出来事でした。
公益財団法人 難病医学研究財団 難病情報センター 特定医療費(指定難病)受給者証所持者数
政府統計の総合窓口(e-Stat)衛生行政報告例/令和3年度衛生行政報告例 統計表 年度報
より作図
ひとつは「薬物治療」。肺動脈を広げる作用を持つリオシグアトがCTEPHの治療薬として世界で初めて承認されました。もうひとつは「カテーテル治療」。バルーンを使って血管の内側を広げる治療方法です。
外科手術、薬物治療、カテーテル治療。3つの方法の中では、やはり外科手術がゴールドスタンダードであり、物理的に血栓を取り除くので良くなるのは間違いありません。しかし体力的に無理だったり、手術後に血栓が残ってしまうケースもあり、そうなると他に手立てがありませんでした。今はそのような手術のできない場合でも、カテーテル治療や薬物療法を組み合わせて行うことで、ほとんどの患者さんが元気に生活できるレベルになったのです。
3つの治療方法にはそれぞれに役割があり、互いに補完するものです。これらをうまく組み合わせることが、CTEPHの治療が最終的に目指す方向性だといえるでしょう。