ページ監修
国立循環器病研究センター病院 放射線部 部長
福田哲也 先生
(ご所属・ご役職は記事作成当時のものです。)
新しい血栓と慢性の線維性塞栓のCT像は異なっている
画像提供:国立循環器病研究センター病院 放射線部 部長 福田哲也 先生
・急性PEの閉塞部末梢は、血流により血栓が充満し径の増大が認められる。また、非閉塞部に中心性、偏心性に血栓が認められ、血管壁と鋭角の欠損像を呈する*10
・慢性PEは、閉塞部末梢の血管径が狭小化する。また、血管壁に三日月状の血栓が認められ、血管壁とは鈍角の欠損像を呈する*10
・CTEPHは十分に認識されていないため、確定診断が遅れることが多く*15、症状発現から診断確定までの時間の中央値は14ヵ月で*3、予後不良の一因になっている*11
・初期段階では症状は軽く*8,*14、進行すると右心不全の徴候のみ顕在化することがある*3
・患者は非特異的症状を呈することが多く、急性PE、あるいは喘息などの心肺疾患または虚血性心疾患と診断されることが多い*11-*13
CTEPHは、急性PE後に発症しうる予後不良な合併症でる*16,*17
PHは「安静時に右心カテーテル検査を用いて実測した肺動脈平均圧(mean PAP)が25mmHg以上の場合」と定義されている*3,*18
※ニース分類2013
CTEPHの特徴*18
・mPAPが25mmHg以上、肺動脈楔入圧(PAWP)が正常(15mmHg以下)である
・肺換気-血流シンチグラムで、換気分布に異常のない区域性血流分布欠損(segmental defects)が血液溶解療法または抗凝固療法施行後も6ヵ月以上不変、あるいは不変と推測できる
・肺動脈造影で
①pouch defects,
②webs and bands,
③intimal irregularities,
④abrupt narrowing,
⑤complete obstruction
のうち少なくとも1つが証明される
・胸部造影CTで
①mural defects,
②webs and bands,
③intimal irregularities,
④abrupt narrowing,
⑤complete obstruction
のうち少なくとも1つが証明される
CTEPHの鑑別は単一の画像診断法では難しく、様々な画像診断法を組み合わせて診断することが必要である
心エコー検査
・PHが疑われる症状や既往歴を有する患者にはまず心エコー検査を行う*3
・PEの既往歴を有する患者が(右室機能不全の有無に関係なく)PHを呈する場合、あるいは急性PEが疑われる場合、CTEPHを考慮する*17
PHが疑われるエコー所見*22-*24
・右室拡大あるいは右室肥大
・右室壁運動低下
・右心房拡大
・右室圧負荷
・心室中隔の扁平化/左室側への偏位
画像提供:国立循環器病研究センター病院 放射線部 部長 福田哲也 先生
肺換気血流シンチグラフィ(V/Qスキャン)
・CTEPHの鑑別のためにV/Qスキャンを行う*3,*20
・V/Qスキャンは96~97.4%の感度、特異度90-95%を示し*1、基本的にV/Qスキャン陰性(すなわち正常)はCTEPHの存在を否定することを意味する
V/QスキャンはCTEPH診断に必要な検査である
画像提供:国立循環器病研究センター病院 放射線部 部長 福田哲也 先生
V/Qスキャンの有用性
・血流障害部位の検出に有用
・Negative Predictive Value(NPV)が高い
CTEPHの確定診断は、胸部造影CT・肺動脈造影にて検出される特徴的所見※、および右心カテーテル検査より判断する*18
※CTEPHの特徴 参照
胸部造影CT
・肺動脈腫瘍や肺動脈炎などとの鑑別や、肺動脈区域枝レベルまでの血栓の描出ができる
・肺動脈造影所見によるCTEPHの診断基準*18
①pouch defects,
②webs and bands,
③intimal irregularities,
④abrupt narrowing,
⑤complete obstruction
のうち少なくとも1つが証明される
肺動脈造影
・造影CTが肺動脈区域枝レベルまでの血栓の検出に有用なのに対して、亜区域枝レベルの血栓塞栓の確認には、肺動脈造影が必要とされている
・肺動脈造影所見によるCTEPHの診断基準*18
①pouch defects,
②webs and bands,
③intimal irregularities,
④abrupt narrowing,
⑤complete obstruction
のうち少なくとも1つが証明される
画像提供:国立循環器病研究センター病院 放射線部 部長 福田哲也 先生
右心カテーテル検査
・右心カテーテル検査で、肺動脈圧、心拍出量、混合静脈血酸素分圧の測定などを行うことで、病態の正確な把握や重症度の評価が可能であり、治療法決定において必須
・低酸素血症を来たすシャント性心疾患との鑑別にも有用
・右心カテーテル検査によるCTEPHの診断基準*18
①肺動脈圧の上昇(安静時肺動脈平均圧が25mmHg以上)
②肺動脈楔入圧(左心房圧)が正常(15 mmHg以下)
CTEPHの治療は、根治的治療であるPEA(pulmonary endarterectomy:肺動脈血栓内膜摘除術)、バルーンカテーテルを用いるBPA(baloon pulmonary angioplasty:バルーン肺動脈拡張術)、リオシグアト(アデムパス®)による内科的治療の3つに分類される
・PEAは、CTEPHの根治が期待できる外科的治療であり、第一選択の治療法*21,*22
・CTEPH症例のうち約60%はPEA適応例といわれているが*22、CTEPHに対する理解不足などの要因により、 PEA適応可否の評価を受けるのは、CTEPH症例の1/4にとどまっている*24
・PEA施行後には、抗凝固薬による維持療法が推奨されている*21
・EA施行症例の1/3で、PEA施行後にCTEPHが残存または再発する可能性があるため、*25,*26定期的な評価も重要
画像提供:国立循環器病研究センター病院 血管外科 医長 佐々木 啓明 先生
国立循環器病研究センター病院 放射線部 部長 福田 哲也 先生
PEAは、CTEPHの根治術かつ第一選択*21,*22
・BPAは、CTEPHの肺動脈狭窄・閉塞病変をバルーンカテーテルで拡張する低侵襲カテーテル治療
・BPAの適応決定においては、PEA不適応症例やPEA施行後に残存・再発した症例、内科的治療で効果不十分であること、多臓器不全でないこと、など複数の基準がある
・CTEPHに対するBPA実施は世界をリードして日本で行われてきた
・BPA実施に際しては、CTEPH、PAHおよびBPAに精通した内科・外科などの専門医に加えて、BPA周術期対応が可能な施設体制が整っていることなどが必要であり、BPAの実施が可能な医療機関は日本国内でも限られる
・BPAは、PEA不適応例や、PEA施行後の残存・再発例であること、内科的治療で効果不十分であること、多臓器不全でないこと、などの基準を満たす症例に適応される
・日本国内でBPA指導施設・実施医・指導医基準が示されている
・リオシグアトは、外科的治療不適応又は外科的治療後に残存・再発した慢性血栓塞栓性肺高血圧症・肺動脈性肺高血圧症における有効性が認められており、 CTEPHに対して承認を取得している内科的治療薬*27,*28
・血栓溶解剤のみの内科的治療は、CTEPH患者に対しては有効でないことが示されている*29
・リオシグアトは、1日3回経口投与の可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤
・NO 非存在下でNO-sGC-cGMP経路の上流に位置するsGCを直接刺激するとともに、NO存在下ではNOに対するsGCの感受性を高める作用を有するため、 NOが低下する病態においても肺血管拡張作用が期待できる
・リオシグアトは、外科的治療不適応なCTEPHまたはPEA後に残存・再発したCTEPHにおける有効性が認められ、承認を取得した内科的治療薬である*27,*28
・リオシグアトはsGC刺激剤であり、 NOの有無によらず肺血管拡張作用が期待できる
※掲載されている薬剤の使用に当たっては、添付文書を参照してください。
CTEPHは治療可能であり*14、治療によるQOLや予後改善が示されている*5
References
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