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後悔しない人生を過ごすために ―患者さんが自分らしく生きるための(意思決定)支援―

肺高血圧症患者さんと医師による座談会

後悔しない人生を過ごすために

ー患者さんが自分らしく生きるための(意思決定)支援ー

後悔しない人生を過ごすために

肺高血圧症により、趣味や仕事などを制限されて「自分らしく生きる」ことが難しい患者さんは多くいらっしゃると思います。今回は、NPO法人 PAHの会 理事長の村上さんの司会のもと、患者さん代表として吉田りょうさん、鶴野千恵さん、医師代表として北海道大学の辻野一三先生にお集まりいただき、現在の患者さんと医師の間にあるギャップや、ギャップに関するアンケート調査、そしてギャップを解消して患者さんが自分らしく生きていくためのサポートなどについてお話しいただきました。

(2022年7月15日開催)

司会:

  • 村上 紀子さん
    NPO法人 PAHの会 理事長。20年近くにわたり患者会に携わる。

パネリスト:

  • 北海道大学大学院医学研究科 呼吸・循環イノベーティブ リサーチ分野 特任教授 辻野 一三先生
    北海道大学医学部を卒業後、同大学呼吸器内科(旧:第一内科)で長年肺高血圧症の治療に携わる。
  • PAHの会 会員 吉田 りょうさん
    PAHの治療を開始して13年。飲み薬と携帯ポンプによる静脈内投与の薬で治療を継続している。
  • 鶴野 千恵さん
    2017年にCTEPHと診断される。北海道大学主導の治療にて3回の入院で6回のBPA(バルーン肺動脈形成術)を受け、酸素吸入療法から解放されて飲み薬による治療を続けている。


患者さんと医師の間にあるギャップ

本心や希望をなかなか言い出せない患者さんの存在
座談会参加者

村上さん:肺高血圧症患者さんが、発症してから専門医のもとで診察を開始するまでに平均で3年半かかるとのアンケート調査の結果があります(2014年にPAHの会が実施、回答者93名)。3年半もの時間がかかる理由として、専門医が少ないことがフォーカスされてきました。しかし、患者会での聴き取りでは、患者さんがかかりつけ医に、「ほかの医療機関を受診したい」、「セカンドオピニオンを受けたい」と申し出るハードルが高く、かかりつけ医に嫌われたくない心理が働いているとの意見が出ています。やりたいことがあっても先生に反対されるから言い出しにくいとの声を聞くこともあり、普段の診察で先生に遠慮をして悩みや本心を伝えられていない実態が考えられます。

辻野先生:患者さんの医師に対する遠慮が、専門医のもとで診察が始まるまでに時間がかかる要因の一つだとの聴き取り調査の結果を聞いて、私は大きな衝撃を受けました。というのも、患者さんが症状があっても年齢の影響と考えて病気だと思わない、あるいは医師が別の病気、例えば喘息と判断して様子見をするといったことが診断の遅れの主な理由と考えていたからです。

座談会参加者

村上さん:肺高血圧症患者さんの生命予後は、辻野先生をはじめとする専門医の先生方の努力により大きく改善しました。それによって、患者さんも職場復帰や、就学、結婚など同世代の人たちと同じ生活をしたいとの希望を持つようになり、生命予後を重視する医師側とのギャップが生じているのかもしれません。辻野先生は、このような患者さんと医師の間のギャップについてどのようにお考えでしょうか。

辻野先生:診察では患者さんの病気の悪化を見逃さないことが重要であり、患者さんが診察室に入っていらしたときに医師が一番注意を向けるのは、息切れやむくみなどの患者さんの症状や病状の変化です。患者さんの変化を見落とさないことが診察に求められる必要最低限のことですが、患者さんにはそれぞれの人生があってやりたいこともさまざまだと思います。医師も患者さんの思いに気付いていながら、時間やきっかけがなく、患者さんに聞けずに必要最低限の診察になってしまっているのがほとんどだと思います。しかし、患者さんがどのようなことを希望していらっしゃるかは、薬の使い方や副作用への対応など治療にも大きく影響するため、患者さんの希望や気持ちを伺うことも大事だと思っています。


患者さんの抱える心配ごとや不安

村上さん:吉田さんや鶴野さんは、患者さんの立場から治療やご自身の生活においてどのような心配や不安をお持ちですか。

座談会参加者

吉田さん:先生にもお話ししてあるのですが、最近は誤作動でアラームが鳴ってカセット交換が必要になるのではないかと外出に不安を感じています。また、今の治療を続けていたら自分の体がどのように変化していく可能性があるのか、将来設計や今後の心構えのためにも知りたい気持ちがあります。社会復帰ができればいいなと考えていますが、体の負担にならないようにしなければと少し不安もあります。

鶴野さん:私が発症した当時は、このまま何もしなければ心臓が5年持たないとまで先生に言われて非常に不安でした。実際に当時は10メートル歩いては止まりを繰り返し、牛乳1本持っただけで5メートル歩くのも難しい状況でした。薬を飲み始めてからは、副作用で全身が痛く、まばたきをしたり、食事で口を開けたりすることさえ痛い時期があり、別の辛さがありました。けれどもBPA(バルーン肺動脈形成術)を受けてからお薬の量も減って副作用もなくなり、不安や心配から解放された気持ちです。

辻野先生:BPA治療前の鶴野さんは、普段から調子が悪く、薬の副作用で体の痛みを訴えられることが何年も続いていました。BPAを受けて酸素吸入が不要になり、薬が減ったりやめたりできる患者さんは2-3割程度いらっしゃる印象ですが、鶴野さんはその2-3割に該当する患者さんだと思います。安静時の検査では肺の血圧は正常になりましたが、血液をさらさらにする薬の服用は必要で、今後は運動したときの状態を診る検査を行う予定です。

座談会参加者

村上さん:体調が良い人には良い人なりの悩みや不安などがあるのかと思いましたが、まったく心配事などありませんか。

鶴野さん:私はあまり我慢をせずに質問したいことがあれば先生に随時質問しています。北海道大学はチーム制で診療してくださるので、辻野先生がお忙しいときはチームのほかの先生にお聞きしたり、看護師さんにも質問したりして悩んでいることを解決してきました。ただ、先生方はお忙しいので、事前に聞きたいことをメモして聞くようにしています。

村上さん:先生や看護師さん、チームのほかの先生に対して遠慮せずに相談して解決してきたから悩みがないのですね。鶴野さんはタイミングを捉えて先生や看護師さんに聞くのが上手なのだと思います。けれども自分の悩みや不安を抱え込んでしまう患者さんも多く、患者さんと医師の間にギャップが生じやすいのかと思います。


心配や不安を聞いてもらいたいのは?
座談会参加者

村上さん:吉田さんは、今抱えている心配事や不安を誰に聞いてもらいたいと思いますか。

吉田さん:普段の診察では、検査結果の説明や、現在の体調、次回診察までの治療内容についての説明で終わってしまうことが多いのですが、自分の将来的な見通しについては先生から改めてお聞きしたいと思います。人によっては聞きたくない方もいらっしゃるかもしれませんが、先生がある程度予測できるのであれば、私は告知してほしいと思います。また、ソーシャルワーカーのような専門の方が就職活動や就職後も仕事内容について相談できたり間に入って調整してくれたりすると心強いと思います。

村上さん:日本の制度上の問題かもしれませんが、肺高血圧症患者さんの相談相手としてソーシャルワーカーはあまりなじみがありませんね。社会復帰する患者さんが増えていく中で、今後重要になってくるかもしれません。鶴野さんは、悩みがあったら誰に聞いてもらいたいと思いますか。

座談会参加者

鶴野さん:私は病気について自分で納得したいので、主治医の先生やチームの先生に聞いてもらいたいと思います。

村上さん:患者会でもやはり先生に話を聞いてもらいたいという意見が多くあります。心配や悩みを先生に聞いてほしいと思いながら、先生もお忙しくて聞くことが難しいのが実情かもしれません。


患者さんと医療者の間のギャップに関するアンケート調査

村上さん:それではここで、医師が考える患者さんの不安や心配と、実際の患者さんの抱える不安や心配ごとについてアンケート調査を行った結果を辻野先生からご紹介いただきます。

辻野先生:はい。北海道大学の肺高血圧症患者さんに「今後も肺高血圧症と付き合っていく中で一番心配なことは何ですか?」というアンケート調査を行い、同時に医師・看護師の医療者にその結果を予想してもらいました。普段の診察ではどうしても病状に集中しがちですが、患者さんが本当はどんなことを考えて悩んでいるのか直接聞いてみたいという気持ちからアンケート調査を行いました。そして、医療者が考える患者さんの心配や悩みと実際の患者さんの心配や悩みには、どの程度のギャップがあるのかについても調査しました。対象は、病状の安定した患者さん50名と肺高血圧症診療に携わる医師または看護師の医療者10名です。最初に、肺高血圧症と付き合っていく中で心配なことを、肺高血圧症と関係のないことでもよいので教えてくださいと患者さんにお聞きしました。そして患者さんの回答を分類1の「肺高血圧症に関連する健康上の心配事」、分類2の「肺高血圧症以外の健康上の心配事」、分類3の「家庭、仕事、自然災害など健康に関係しない心配事」、分類4の「心配事なし」の4つに分け、医療者には患者さんの回答の中でどの分類が多いかを予測してもらいました。その結果、医療者の予測としては、分類1の肺高血圧症に関する心配事と予測した人が80%(8名)、分類2のそれ以外の病気に関する心配事と予測した人が20%(2名)でした。しかし、患者さんの実際の回答は、分類1の回答が32%と最も多かったものの、分類4の回答が28%、分類3の回答が26%、分類2の回答が14%と大きく分かれる結果となったのです。医療者の予測が実際の患者さんの回答と分布が異なったのが驚きですが(p=0.0098、Fisher’s test)、特に心配事がないとする分類4の回答が多かったことも印象的でした。

村上さん:患者さんの具体的な回答内容はどのようなものだったのでしょうか。

辻野先生:分類1では、病気の悪化が不安、将来酸素が必要になるか不安といった回答があり、分類2では、腎臓病や動脈瘤の方が心配といった回答がありました。分類3では、アンケート直前にあった地震などの自然災害が怖い、年をとることが心配、仕事を続けられるか不安といった回答があり、分類4では、先生に全部任せているので心配していないといった回答がありました。私の感想ですが、通常の診療とは違った質問だったためか、回答する時に患者さんが嬉しそうに話してくださったり、笑顔が見られたりしたのが印象的でした。患者さんの思いを共有することが安心にもつながり大切だと実感しました。また、アンケートを通して、負担のより少ない在宅酸素療法を探したり、合併症の状況を念頭においたり、患者さんの気持ちに寄り添う対応を心がけるようになりました。


患者さんと医師の間のギャップの要因

価値観も置かれた状況も多様な患者さん
座談会参加者

村上さん:辻野先生、ありがとうございました。先生の行ったアンケート調査の結果でも、医師や看護師さんの考える患者さんの心配や不安と、患者さんの実際の心配や不安の間にはギャップが認められましたが、辻野先生はこのギャップの要因としてどのようなものがあるとお考えですか。

辻野先生:医師は共通して、患者さんの病気の状態や変化を見逃さないことは意識していると思います。しかし、患者さんの考え方や価値観はさまざまで、心配だから病院に来たい人、検査を受けたい人もいれば、病院が嫌い、検査もできれば受けたくない人もいます。薬に対する考え方も、効く可能性があるなら副作用に耐えられる人もいれば、少しの副作用も嫌だという人もいます。そうした患者さんのさまざまな考えを知って診療に反映させることはとても大切なのは分かっているのですが、現実的には、忙しさに流されて病気や治療の話だけで終わってしまっているのが現状と思います。

座談会参加者

村上さん:患者さん側は医師と患者の考えのギャップの要因についてどのように考えていますか。

吉田さん:以前通っていた病院は診察する患者数が大変多く、先生とお話をする時間がなかなか持てませんでしたが、今の病院は以前より患者さんが少なく、先生とお話をする時間は改善されたと感じるので、先生の忙しさも影響していると思います。けれども今も、病気や日々の体調以外について、命に係わるほどのことでもない事などは先生に相談しにくいと思う気持ちもあります。でも、普段の生活の困りごとなども少しだけ耳を傾けていただけたら、話を聞いていただけるだけで、ちょっと心が軽くなったり、心の中が整理できたりするのでは、と思います。病状以外でもテープのかゆみやポンプの重さによる腰痛などに悩んでおり、本当は少しでもご相談して解決したいと思っています。また、体が辛い時は、検査するだけで疲れてしまい、診察のときには質問にうまく答えられないときもあります。大事なことは何回も聞いたり、説明したりしてくださると本当にありがたいと思います。その点では、新型コロナウイルス感染症の影響により、電話による診察が可能になった点は体への負担も軽減されて助かりますね。

村上さん:吉田さんはより自分らしく生活していくために、先生からどのようなサポートを受けたいとお考えですか。

吉田さん:旅行に行くとか仕事をするといった一歩を踏み出すためにはどうしたらよいのか一緒に考えていただいたり、お手伝いをしていただけたりしたら嬉しいと思います。

村上さん:病状を考慮して、どんな準備をしたらよいか一緒に考えて送り出してもらえたら嬉しいですよね。鶴野さんは病気の診療以外で先生に何かサポートを希望されていますか。

鶴野さん:私はかつて心臓が5年持たないと言われてからちょうど5年経ち、これだけ元気に過ごせていることに満足しています。今アルバイトをしているのですが、今年は、治療後の経過観察のため、カテーテル検査をはじめいろいろな検査を行い問題なければ、先生に相談して、お仕事のことを考えようと思っています。

村上さん:鶴野さんは心配を抱えることなく表に出して解決することができ、治療もうまくいった非常に幸運な方だと思います。


患者さんが自分らしく生きるための支援

ギャップを解消するための歩み寄り

村上さん:患者さんの多くは、病気になる前の生活に戻りたいと希望されていると思いますが、趣味を制限される、仕事も短時間にせざるを得ないなど自分らしさを取り戻すための願いがなかなか受け入れられない現状があると思います。また、吉田さんのように病気の治療から一歩進んだ自分の人生における希望について、なかなか先生に打ち明けることが難しい患者さんも多いと思います。こうしたことから生まれる患者さんと医師側とのギャップを埋めるために、先生の立場からどうしたらよいとお考えでしょうか。

座談会参加者

辻野先生:医師側としては、患者さんの病状を診る必要最低限の診察から一歩歩み寄る姿勢が必要だと思います。一言かけて、自分の生活のことも考えてくれているのだなと患者さんに感じていただければ、医師と患者さんの関係性も少しずつ変わる可能性があります。また、先ほど、患者さんの希望として旅行や仕事などが挙げられましたが、患者さんからそうした具体的な希望を言っていただければ、状況や体調にもよりますが、仕事であれば短時間からスタートして、検査をしながら様子を見て段階的に時間を増やすというように、少しずつやりたいことを広げていくことは可能だと思います。私自身も、患者さんの望みを取り入れて医師と患者さんの共同作業でできることを広げていきたいと希望しています。

村上さん:吉田さんは、患者さんの立場からギャップを埋めるためにどのようにしたらよいとお考えですか。

吉田さん:思い切って主治医の先生に相談したり、自分でほかにも相談先がないか探したりすることも大事だと思いました。また、先生とは相性もあると思うので、セカンドオピニオンなどで自分に合う先生を見つけることも大切だと思います。私自身、セカンドオピニオンで出会った先生にとても感謝しています。また、先ほど鶴野さんもおっしゃっていましたが、私も診察の待ち時間に聞きたいことをメモして聞くようにしています。診察時間は限られているのでそうした患者側の工夫も必要だと思います。

村上さん:聞きたいことや心配事などをメモして患者さんも聞く準備をすることも大切ですよね。鶴野さんのように聞きたいことを聞く姿勢もギャップを解消するための大きな一歩だと思います。また、辻野先生のように患者さんへのアンケート調査を行ってみようとお考えになる先生が増えたら、患者さんの悩みも減るのではないかと思います。最後に、辻野先生からメッセージをお願いします。

辻野先生:今日は患者さんの意識や気持ちを聞かせていただき、貴重なお話が伺えました。私が行ったアンケートでも、医療者と患者さんの考えのギャップが明らかになりましたが、患者さんが考えていらっしゃることを患者さん側からも教えていただきたいと思います。一方で、肺高血圧症をより多くの医師に認知してもらい、患者さんの速やかな診断と治療につなげていくための努力も引き続き行っていきたいと思います。

村上さん:多くの患者さんは、肺高血圧症とともに自分らしく、後悔のない人生を生きたいと思っており、病気だからと諦めずに自分らしく精いっぱい生きたいと願っております。患者さんの悩みや心配を先生や看護師さんなどに理解していただき、患者さんが有意義な人生を過ごせるようサポートしていただけたらと願っております。

座談会参加者